こうしてはいられない。巧は、誉を抱え直し急いで廊下を抜けた。

「階さん! こっちです! 諸岡課長が入り口付近に見えました!」

古嶋と合流し人波を駆け抜けた。古嶋の大きな身体は、見た目よりパワーがあり、人を退かすには非常に有効だ。連れてきてよかった。
飛び出したクラブのフロアはやはり混乱している。文句を言う女性、逃げようとした男が入り口付近で取り押さえられている。明らかに未成年の女の子ふたり組がしくしく泣いている。
生活安全課だけではなく、刑事課や組織犯罪対策課の面々の顔も見られることから、立ち入りには相当な人数が割かれているようだ。通常の未成年補導の規模ではない。
その中から、諸岡課長の姿を見つけ、巧は誉を抱きかかえたまま駆け寄った。

「階、古嶋ご苦労。御堂、潜入お疲れ」

誉と本件を画策したのだろう諸岡課長は笑顔だ。

「階、下ろせ」
「あだっ!」

巧の腕をぐりっとつねり、誉がすたっと床に着地した。御堂誉は何事もなかったかのように、諸岡課長を見上げる。

「課長ありがとうございました。まあまあ、聞きたいことが聞けました」
「こっちは任せて。犯抑は目立たずに撤収しなさい。うるさい連中も一緒だからね」

確かにここには誉のことが大嫌いな面子が勢ぞろいしている。御堂誉が潜入調査をしていたなんて知られたら、この後どれほど嫌味を言われ妨害されるかわからない。課長の指示により、三人は入り口から脱出した。