「階さん、VIPルームのドア開いたようです」

古嶋は奥を覗きながら言う。
言葉の通り、VIPルームのある廊下の奥から複数人が出てくる。巧たちのいる廊下とは真逆にある裏のエントランスから早々に退去するつもりらしい。

「さっさと逃げろ!」
「ヨシキ、おまえが先に行け!」

大声と女たちの悲鳴が聞こえる。おそらく、集められた女子には未成年者が何人もいるのだろう。一瞬にして混乱に陥った女子たちが廊下に出てきて騒いでいる。
裏口はCrackzの幹部たちが逃げ出す準備をしていて、女子はそちらからは逃げられずまごついている。フロアからもCrackzのメンバーが逃げてきているので、狭い廊下は右往左往する人だらけだ。巧と古嶋は廊下の壁に貼りつき、状況を見定める。

「なんだてめえら!」
「おい! どけ!」

廊下からは見えないが、裏口の方から男たちの怒号が聞こえてきた。ガサ入れで裏に捜査員が回らないはずがない。逃げ出そうとしたCrackz幹部と捜査員が揉めているのだ。捜査員の姿を見てさらにパニックになる女たちの悲鳴が聞こえた。

「階さん!」
「古嶋、そこ待機! おまえは目立つ!」

巧は逃げ惑う女たちをかき分けて進んだ。Crackzの幹部たちに顔を見られるわけにはいかないが、早く誉を救出しなければならない。
悲鳴と怒号の中、ようやくVIPルームにたどり着いた。海外製の豪華なソファと大理石のテーブル、強く香る酒とハーブ系の香り。すでにもぬけの殻に思えた室内、ソファの陰にうずくまっている小さな陰を見つけた。

「御堂さん!」
「馬鹿、大声で名前を呼ぶな」

誉は顔をあげ、厳しく眉を顰める。おそらくはVIPルームに鳥居坂署の面々が到達するまで身をひそめていようと思ったのだろう。