「御堂さん、大丈夫かな」
「大丈夫じゃ……ないかもしれません……」

古嶋が消え入りそうな声で言う。相変わらずクラブの腹に響く騒音に震えあがってはいるが、なんとか巧に言葉を伝えようとしている。

「妹の友達が……やっぱりこういうバイトしてみたらしいんですが……、男たちに薬かがされて乱暴されたって……」
「ええ!?」

思わず叫んでしまった。巧とて警察官の知識として、そういった事件が起きていることは知っている。しかし、身近での実体験に一気に不安感が募る。

「女子は男たちの膝に座らされたり、その場で性行為に及ばれたり……。妹の友達は拒否して危険ドラッグを使われたみたいです」

危険ドラッグ……、それだけじゃすまないかもしれない。御堂誉の場合、アルコールをひと口でも無理強いされたら、機動力はゼロだ。
飲まされなくても、格闘になったとき、男に敵うかは微妙である。刑事として優秀とは言っても彼女の身体能力的な優秀さは聞いていない。

「古嶋、VIPルームの近くまで行ってみよう」

聞きたいことは概ね聞けた。あとは機会を見て、誉を脱出させなければならない。その時、近くにいればカバーができる。
ふたりは賑わう人の波を抜けて奥の廊下へ向かった。半個室のような部屋が続き、そこではカップルが濃厚に絡み合っていたりするから目の毒だ。さらには巧の不安感を煽る。
VIPルームがこの先にあるだろうという地点まで廊下を進み、酔ったふりをして、古嶋とふたり壁にもたれる。近くにトイレがあるので人の出入りはあるが、暗黙の了解でもあるのか、一般客は誰もここから先の廊下には行こうとしない。ギリギリの境界線で待機する。