『御堂はエゴイストだ。自分のことしか考えていない。他者を尊重しない。自分が思った通りに捜査が進まなければ、上司だろうが平気で食ってかかる。邪魔されれば、言葉でも仕事でも、相手を完膚なきまでに叩きつぶすことも厭わない』
『そんな人間の下へつけるのは、俺に警視庁を辞めろと言っているのですか?』

思わず涙目で聞いてしまう巧を、笑顔でなだめ、諸岡はまっすぐ見つめた。

『彼女は恐ろしいほど基本に忠実な刑事だ』

基本に忠実な刑事。なにを当たり前のことを言っているのだろう。
しかしそれだけでは計れない諸岡の言葉に、ごくりと生唾を飲み込む自分に気づいた。

『たぶん、階は彼女からもらえるものが多くあるよ』

諸岡は、とっておきの秘密を告げるように巧に言った。

『きみのいいところは明るく前向きなことだ。彼女の手足になって働くのは、きみにも御堂にもプラスになるだろう。不足を補い合えるはず。まずは犯抑で頑張ってごらん』

巧にはもう返す言葉がなかった。
言われてみれば自身は不足だらけの人間かもしれない。
しかし、御堂誉という傑物に人格以外のなんの不足があり、自分が何を求められてそこに配属されるのか巧にはわからないままだった。
そうして出会った上司・御堂誉とコンビを組んで一ヶ月と少しが経つ。巧はすでにめげそうになっている。