『つうか、ヨシキや俺らが殺る理由ねえよ。あのガキ、金払いよかったし、俺らに従順だったんだぜ』

別な男の声。少なくとも三人は男がいるようだが、そこにどやどやと複数人入室してくるような音声が聞こえた。無線を誉の方に繋いでいるので、携帯に井草からメッセージがある。【四人入店】これで幹部は七人以上揃っていることになる。

『昇鯉会があのガキを始末したとか』

連中は再び話を再開させた。昇鯉会の話題に、巧は耳をそばだてた。おそらくは中で御堂誉もしっかり聞いているだろう。

『見せしめ? でも、俺たちは昇鯉会に高い上納金を納めてるんだぞ』
『俺たちの誰も昇鯉会とトラブルは起こしてない。あいつらが、こっちのガキを見せしめで殺る理由なんかねえよ』

麻布の昇鯉会はCrackzに一目を置いて尊重しているということだったが、実際は目こぼししてもらうためCrackz側から上納金が支払われていたようだ。
勢いがあるとはいえ、若者主体のチーム。関東最大組織・小鹿又組から暖簾分けされた昇鯉会には敵わなかったと見える。暴力団組織にとって、シマのシノギの大部分をかすめ取っていく若者は許しがたかったのだろう。しかし、上納金を納めて現時点までトラブルがなかったのだとしたら……。

『あのガキ、俺たちじゃなくて昇鯉会にすり寄ってたんじゃねえのか?』

ひとりが言う。香西永太はCrackzではなく、昇鯉会に入りたくて、途中で後ろ盾を替えようとしたということか。