巧自身、地域で完璧だったかと尋ねられれば答えられない。喧嘩の仲裁でやり過ぎてしまったり、事件の取扱報告書を記入ミスして上司に怒られたり。勢いばかりの空回りは多かったように思う。しかし、この組織は少々前のめりなくらいの人間の方が好かれ、やる気のない人間は淘汰されるようにできている。巧は巧なりに引っ込み思案な古嶋を心配している。

左耳に誉のいる部屋の音が聞こえてきた。まだ室内は女子だけのようだ。きゃあきゃあと楽しげに騒ぐ女子たちの声はうるさいくらいで、誉がその場に馴染まずに黙っていることだけは伝わってくる。
スカウトに乗ったと言っていたが、誉がいったいどんな格好をしているだろうかと不安になる。そして、彼女は一滴も酒が飲めない。飲めても身動きが取れなくなる。なにかあれば救出だ。
その時、話し声と物音がして、複数人が室内に入ってくるのがわかった。

『ホントかよ』
『だーかーら、勝手に死んだんだよ。俺は始末してねえ』

男数人の声。Crackzの幹部に違いないだろう。

『ヨシキが殺してねえなら、誰だよ』

ヨシキ、Crackzの代表の梶本芳樹のことだろうか。そして、“殺した”相手は香西永太だろう。
願ってもない。いきなりの本題だ。巧は音声に集中する。