感情が滲むわけではない。抑揚なく伝えられる内容は、陣馬と誉の絆を感じさせた。
御堂誉と陣馬遼は、互いをわかり合った元パートナーなのだ。
悔しいが今の自分には敵わないと思い、巧はすぐにかぶりを振った。
別に御堂誉とベストパートナーになる必要はないのだ。彼女は恐怖の上司であり、それはこの先も変わらないはずだから。

「俺なんかが止めても……御堂さんが聞いてくれるかわからないですよ」

苦笑いして言うと、陣馬が真面目な口調で答える。

「説得を聞くヤツじゃないから、言葉での制止は無駄だ。御堂の行動阻止は実力行使を勧めるが、その後長きに渡り階が精神的被害をこうむることは間違いない」

それは力づくは有効だけど、その後徹底的に迫害されるということだろうか。
ふざけているわけではなさそうだが、とぼけた受け答えに、やはりこのイケメンエース刑事は少し天然なようだと思う巧であった。

「今回の事件は、未成年が絡んでいる。御堂も心中穏やかでないだろう。余計に突っ走らないか見張っていろ」
「はい」

未成年……その言葉がわずかにひっかかった。成人の犯罪なら話が違うのだろうか。
訝しげな顔をしてしまったせいか、陣馬がぼそりと付け足すように言った。

「御堂は、高校時代に弟を亡くしている」
「……そう……なんですか」

巧はそれ以上言葉が出なかった。陣馬もまた深く語ることはしなかった。
しかし、彼の口ぶりから、誉の弟が事件か事故に巻き込まれて亡くなったことは察せられた。
巧の頭の中では先ほど過った考えが再び浮上していた。御堂誉を警察官たらしめているものはなんなのか。