その後、巧は特捜本部のある鳥居坂署第一会議室へ連れていかれた。
無茶ぶりされた感は否めないが、正直ドキドキしていた。“吸い上げ”である。憧れの刑事の仕事を手伝える。
やることがシュレッダー係だったり、本部の清掃だったりと雑用づくめだとしても、捜査一課に憧れる者なら嬉しい職場だ。
しかし、一歩本部に入った瞬間、すでに捜査に参加していた鳥居坂署の刑事たちがぎろりと巧を睨んだ。

「犯抑の階じゃねえか!」
「御堂の犬がなんの用だ!」
「御堂に言われてきやがったな?」

浴びせられる罵声は本件の責任者である村中警部の耳にしっかり入っていた……。
こうなると、陣馬が推薦しようが大西が取り成そうが無駄であった。
巧はほんの数分で特捜本部を追い出され、犯罪抑止係のオフィスに無念の帰還と相成ったのであった。

さすがに責任を感じたのか、署の自動販売機で陣馬がコーヒーを奢ってくれる。
大西は村中に呼ばれ、本部に居残ったので、巧は期せずして陣馬遼とふたりきりになった。

「ありがとうございます」

コーヒーを受け取って、巧は頭を下げた。
陣馬の横顔はびっくりするほど整っている。切れ長の涼やかな瞳に高い鼻梁、薄い唇。これは同じ男としてどうやっても勝ち目のないところだった。