「吸い上げ? 勘弁してくれ。村中警部の血圧が上がるぞ。鳥居坂の刑事たちも黙っちゃいないだろうな」

誉は嘲笑して拒否した。吸い上げとは特捜本部に所轄の者が招集されることである。刑事に限らず、見どころがあればどの部署の者でも可能性はある。

「一課はようやく、Crackzに行きついたのか」

誉の問いに陣馬が答えた。

「被害者とCrackzの一部の幹部が懇意だったことがわかっただけだ」
「相変わらずスロー過ぎないか? 早く特殊詐欺と金の流れを調べた方がいい」
「村中警部も頭にはあるさ。Crackzだけじゃない。麻布界隈の暴力団、昇鯉会も捜査対象に入るだろう」
「昇鯉会がCrackzへの見せしめに殺したって可能性も捨てきれないからな」

ツーカーのやりとりに早くも飲まれそうになっている巧は、なんとか話について行こうと必死にふたりの顔を見つめる。いきなり誉がこちらを向いた。

「なんだ、階」

じっと見つめ過ぎてしまったようだ。誉は不思議そうな顔をしている。

「いえ、なんでもありません! おふたりの捜査は勉強になるなあと感じていたところです!」

いかにも体育会系といった雰囲気で直立して返事する巧を、誉は冷たい目で一瞥し、次に思い立ったように陣馬に視線を移した。

「そうだ。うちの階でよければ、吸い上げてくれ。こいつは一課志望なんだ。私の部下だから、私への意志の疎通は早いぞ」
「え!? ちょっと御堂さん!」

突然の話に慌てていると、納得したように陣馬が頷いた。

「なるほど。連れて行ってみよう。御堂とのパイプになってくれ」

陣馬が涼やかな目で『こい』と合図する。どうして、このふたりは判断が早いのだろう。こっちの気持ちなどは完全無視で、決めたら即行動なのだ。