事件解決の頼りにすべき捜査一課が迷走していると知れば、雪緒も不安に違いない。どうして誉はそんなことを教えてしまうのかと巧は内心思った。

「本当に無能で困りますよ」

誉はおどけて肩をすくめて見せる。“無能”の一点においては本心だろう。

「香西永太くんの裏の顔は、やがてつまびらかになるでしょう。鳥居坂署は、彼の死から振り込め詐欺の捜査を始めているし、一課もやがてそこに到達する。幸井くん、私は振り込め詐欺を解決する方が仕事なんですが、ひいては香西くんの死の真相を暴くことに繋がると信じています」

実際、犯罪抑止係に捜査する権限はないが、誉の言うことに合わせて巧は頷いた。

「きみは香西永太くんによって集められたメンバーについてなにか知っているかな?」

雪緒は力なく首を左右に振った。

「すみません。俺は、誘われたけどほとんど蚊帳の外だったので……。お役に立てるような情報なくて……」
「いや、充分いろんなことを教えてもらえたよ」

笑顔になった巧は雪緒の肩をたたく。

「朝からごめんな。きみもつらいのに。元気を出してとは言いづらいけれど、あまり思い詰めないようにね」

巧の言葉に雪緒が涙ぐんだ瞳で巧を見上げる。感謝と信頼を映すあどけない瞳と表情は、どきっとするくらい愛らしかった。

「なにか思いだしたり、不安なことがあれば、鳥居坂署の犯罪抑止係に連絡してください。私か階が駆けつけますので」

誉も温かな口調で請け負う。

「はい、ありがとうございます」

雪緒は頭を下げ、急ぎ足で学校の方向へ去っていった。あと数分で始業だろう。