卒業配置されたのが池袋署という大きな駅と繁華街を持つ忙しい署だったが、ここでもまた上司に怒鳴られる回数は新人で一番だった。
体力も根性も負けない。しかし、巧自身が一生懸命やればやるほど空回りする。巧としては正しいことをしているつもりでも、周りから浮いてしまう。『やる気があるのはわかるんだけどさあ』苦笑いで言われるのは怒鳴られるよりきつかった。
しかし、長く体育会系に身を置いてきた巧は愚直に思った。
上司の叱責がなんだ。犯罪者と渡り合う警察官がパワハラなどと感じるのは馬鹿らしい。今の立場は組織でも手足。叱られ、指導されるのは誰しも通る道なのだ。
ここで不貞腐れては、大いなる夢は叶わない。
配属二年目で機動隊に異動してからは、心身を鍛える訓練の毎日だった。
その後鳥居坂署に異動し、念願の刑事講習もそこそこの成績で突破したつもりだった。
やっと努力を認めてもらえると思ったのだ。

『どうして俺が犯抑なんですか?』

内示を聞くや否や、巧は生活安全課の諸岡(もろおか)警視に直談判に出た。
犯罪抑止係は副署長直轄だが、普段の決済や監督は生活安全課の課長が一緒に見ている。
諸岡は言った。

『犯抑じゃ不満かい?』
『俺は捜査がしたいんです!』
『ははあ、なるほど』