「犯行が中途半端なのさ。物取り風でしかない」
「じゃあ、ですよ」

巧は頭に浮かんだことを素直に口にする。

「この犯行は、突発的だったってことですか? 凶器はガイシャの持ち物ですよね。もともとは殺すつもりはなかったけど、揉み合っているうちに殺してしまい、強盗殺人に見せかけたっていう」
「……衝動的な犯行であれば、現場で争う声を聞いた者もいただろう。逃げた犯人はどこぞの防犯カメラにその姿を映していただろう。しかし、証拠はまだどこからも見つかっていない」

確かにそうだ。防犯カメラに不審者はいなかったと昼間の時点で陣馬が言っていた。その後も続報はない。目撃証言もあがってこない。

「被害者は防御創もなく、腰部を刺されてうずくまったところ、首を切り裂かれている。ナイフを奪われた相手に背中を向けるか?」
「逃げようとしたのかもしれませんよ」
「だとしたら、犯人はよほどの俊足だ。腰だめにナイフを構えて、逃げる被害者に追いつき、身体ごとぶつかって傷を負わせたわけだから。多くの場合、逃げ惑う相手に切りかかるときは、刃物を振りあげる。その方がターゲットに届くからだ。どちらにしろ、多少は騒ぐ声が周辺に聞こえるだろうな」

現時点で状況だけを見れば、確かに強盗殺人の要素が強い。しかし、誉の上げる点は、どれも引っかかるものばかりだ。