材料を抱え、署から徒歩二十分の誉のマンションにやってきた。前回は酔っぱらったところを送りにきたのだ。今回は招かれている。
相変わらず雑然とした部屋だが、今日は掃除に来たわけではないので、整理整頓はまたの機会にすることにした。
巧はシャツの袖をまくり、スポーツタオルをカフェエプロンのように腰に巻き、料理にとりかかった。
大学時代独り暮らしをしていた巧は、自炊がひと通りできる。そして、男所帯の空手部で、同輩たちに手料理を振る舞ったことは一度や二度ではない。今は独身寮で、炊事スペースが自室にないからやらないだけだ。共同の炊事場ではたまにカレーくらいは作っている。
巧が調理する間、誉はジャージに着替え、トカゲのムサシを膝にのせ、ソファで事件資料を見ていた。
ただでさえ、化粧っけがないのにジャージ姿になると殊更幼く見える。服を脱ぐ時にそうなったのか、お団子はくしゃっとくずれ、後れ毛が白い首筋に落ちている。
相手が部下とはいえ、独身男を前に気を抜き過ぎではないかとあらためて心配になりながら、巧はひき肉をこねた。

「一課は被害者の交友関係に着目し始めたな」

陣馬から連絡がきているようで、誉はスマホの画面をスクロールさせながら口を開く。