「ところで階、夕飯はどうする」

突如として食事の話になり、巧はがくっとデスクに突っ伏しそうになった。

「私はハンバーグが食べたい。階が弁当を買いにいくなら、私の分も買ってこい。ダブルバーグ、ごはん大盛だ」

一応、こちらに選択肢を投げているようだが、これは命令だ。 “アポ電強盗に気を付けよう”ポスター作成はまだ終わらないが、明日の予定が普段通りのものなら時間はたくさんある。今日のところは、残業せずに帰宅すべきだろう。独身寮の部屋にカップラーメンくらいはある。
しかし、誉は現在とても空腹な様子だ。

「ハンバーグ……。俺、作りましょうか?」

口にしてから、巧は一瞬固まった。そして、俄然慌てた。勢いでなにを言ってしまったのだろうか?
ぶんと勢いよく上司に顔を巡らせれば、彼女はデスクからこちらを見ている。ずっとPCから離れなかった視線が、ハンバーグ発言から巧に向けられている。

「それは、私の家でハンバーグを作るということか?」

上司で、仮にもひとり暮らしの女性の家に、男性部下が食事を作りに行く提案などしていいはずがない。引きつった声で、巧は謝った。

「す、すみません! 俺、変なことを……!」
「ダブルバーグだぞ、デミグラスの」

予想と違った反応に、巧は謝罪のため下げた頭をおそるおそる持ち上げる。誉は険しい顔をしている。