犯罪抑止係は副署長直属でありとあらゆる防犯の企画を立てる部署だ。そう言えば聞こえはいいが、鳥居坂署での扱いは姥捨て山だった。使えない&面倒くさい人材の墓場、それが犯罪抑止係である。そんな部署になぜ若手のホープである自分が配属されなければならないのか。
このあたりで巧は気づいた。
もしかして、『気力体力折り紙付き』『仕事ができる』『期待の星』という評価は自分の中だけのものだったのではないだろうか。
プラス思考と大きな夢に阻害されて見えなくなっていた自身への評価を洗い直してみる。
警察学校時代の成績は真ん中。しかし、教官に叱責されることは多かった。
体力があっても不器用なところのある巧は、真面目にこなしているつもりでも小さなミスが多い。ひとりだけ装備を忘れる。右を向くべきところで左を向く。
同期は巧をおっちょこちょいの面白いヤツと見てくれたが、巧のミスで教場全員が連帯責任のランニングなどをさせられれば、いつしか『あいつが足を引っ張っている』とみなされる。
巧の明るくさっぱりした性格から嫌われることはなかったものの、困ったヤツくらいには思われていたかもしれない。
そういえば、今だに飲み会の度に、教場時代の失敗をネタに笑われる。もしかして、自分はいじられキャラなのではとすら思えてくる。