先輩の手を掴んだまま朝比奈くんが口を開く。


「そもそも、カナさんが俺のこと好きになって先輩のことふったとしても俺の責任じゃないよね?…てか、ふられたのってあんたに魅力がなかったからじゃねえの?」


「なっ…」


先輩があんぐりと口を開けて固まった。


それは床に座りこんだ私も一緒で。


まさかあの朝比奈くんがあのこぶしを受け止めれたこと自体驚きだし、それに普段一人称が”僕”の朝比奈くんが「俺」とか「あんた」とかちょっと口悪くなるなんて…!


私がぽかーんとしている間に、先輩はチッと舌打ちをして保管室を出て行った。


「…あんたも。」


シーンとした空間で、朝比奈くんの可愛らしい声が発せられる。


それでもやっぱり「あんた」なんだ…。


そう思いつつ朝比奈くんの方に顔を上げると、



「馬鹿じゃないの?」


と、いつものふわふわした笑顔とは180度違う冷たい目で見降ろされた。


「えっ…」


えっ、なんで!?なんで私がそんなこと言われなきゃいけないの!?


「どーせ、俺の見た目で殴られるとか思ったんでしょ。…余計なお世話だから。」


これだから女子はめんどくさい、とでも言うような口ぶり。


「大体女子って皆そう。少し女っぽい顔をしてるからって”可愛い”とか言って勝手に俺のことを甘いものと可愛らしい小物が好きでか弱いやつにする。」


「まじ迷惑なんだよ。どいつもこいつもブサイクな面して俺の前に来てへらへら笑ってさ。」


誰があんなやつら、相手にするかっての。と馬鹿にしたようにうっすら笑う。


それを言われた瞬間、私はカチンときて思わず言い返した。


「何それ!たしかに朝比奈くんのことを勝手に決めつけたりしてるかもしれないけど、本気で朝比奈くんのことが好きな人もいるんだからっ…朝比奈くんがこんなに最低な人だとは思わなかったっ!」


大声で一気にまくしたてると頬にズキンと痛みがくる。


「いったぁっ…」

頬にそっと手を当てていると、はぁ…とため息をつく朝比奈くん。


そして、


「おいお前。保健室行け。」


「や、でもこれくらいいけるよ。」


そう言った私に睨みを聞かせて手首をつかみ、奥の扉から保管室を出て廊下を歩きだした。