「あれは、俺が十八の時だ…クラスで一番可愛い女の子をデートに誘ったんだ!でもな、そん時、俺の他に五人も同時に彼女をデートに誘ったんだぞ。彼女は誰を選んだと思う?…俺だよ、俺!なんでだと思う?…俺はその時、彼女にバラの花束をプレゼントしたんだよ」

 ジャンはこの上ないぐらいに笑顔を浮かべている。
 実は、ジャンが女性をデートに誘った事があるのは、この時の彼女だけだったのだ。
 女性の前では極度にあがってしまうジャンは、三十五年の人生の中で、唯一、彼女だけをデートに誘う事ができたのである。
 別に不細工という程、顔は悪くないのだが、ジャン自身、何故女性の前であがってしまうのか原因が分かっていなかったのだ´。きっと幼少の頃にでも、トラウマがあるのだろう。
 故にジャンは三十五を過ぎても、結婚をしないでいる。いや、できないでいるのだ。

「フェルドも俺のアドバイスを聞いて、ソフィアにバラの花束をプレゼントしたから、お前が生まれてきたんだぞ」

 ジャンは懐かしむような顔をして言った。
 ソフィアというのは、今は亡きリアンの母親で、この街では有名な美しい女性だった。
 リアンが美しい顔立ちなのは、ソフィアの血を引いているせいかもしれない。
 画家を志して放浪の旅を続けていたフェルドが、この街に落ち着いたのも、街の風景や雰囲気を気に入った事もあっただろうが、やはりソフィアの存在が大きかったのだろう。