スタルスが十五才の時、部屋でピアノを弾いていると、それは起きた。
 家に居たマドルスが、スタルスの部屋の前を通り掛かったのだ。
 部屋から漏れ聞こえてくるピアノのメロディー。
 マドルスは部屋の前で足を止めると、スタルスのピアノの音に耳を傾ける。そして暫くすると、スタルスの部屋へと入って行った。
 スタルスは入ってきた人物に驚き、ピアノを弾く手を止めた。
 自分の部屋にマドルスが入った事は、スタルスの記憶には一度もない。
 ノックも無しに入ってきた予期せぬ人物の訪問に、戸惑いよりも喜びがスタルスの体を支配していく。そしてスタルスは、マドルスに聴かせるように、心を込めて再びピアノを弾き始めた。

『父さん聴いて…こんなに上達したんだよ』

 スタルスはそんな思いを込め、目を閉じピアノを弾いている。しかし、マドルスは直ぐにピアニストらしからぬ行動を取り始めた。
 演奏を遮るように、喋りだしたのである。

「…お前は明日から、ピアノのレッスンをしなくていい」

 スタルスの軽やかに動いていた指先が、ぴたりと止まった。

「…なんで?…なんでだよ!?」

 わなわなと震えるスタルスは、それを確かめるように叫んだ。

「お前には才能がない」

 そう言ったマドルスは、冷たい目をしている。