スタルスは幼い頃、父親のマドルスのようなピアニストになる事を夢見ていた。
 その頃のマドルスはピアノ演奏をする為、世界中を飛び回っていた。
 普段あまり家にいないマドルスが、家にいる時だけは、幼いスタルスが甘えたかったのは仕方がない事だろう。しかしマドルスには、まるで構ってもらえなかった。スタルスはフェルドに付きっ切りでピアノを教えていたのだ。
 スタルスもピアノをマドルスに習いたかった。しかし、マドルスはスタルスにピアノを教える事はなかった。
 スタルスとフェルドは、年齢が二歳離れている。
 その頃のスタルスの歳の時には、フェルドのピアノの才能は、早々と開花していた。しかし、スタルスはフェルドに比べ、遥かにピアノの才能が劣っている。スタルスは、そう感じていた。
 そう感じたからこそ、フェルドにしかピアノを教えなかったのだ。
 スタルスは専属のピアノ教師にピアノをずっと習っていた。そして小学校に上がる頃には、フェルドに対して憎悪にも近い嫉妬心を抱き始めるようになった。
 それを感じながらも、フェルドはスタルスを何かと気にかけていた。
 二人は幼い頃に母親を亡くしている。
 父親は留守がちで、周りの世話をしてくれる執事はいたが、フェルドは弟を気にかけていたのだ。しかし、スタルスはそれを煙たがっていた。
 スタルスは学校以外の時間は自分の部屋に引き籠もり、睡眠時間を削ってまでもピアノを弾き続けた。
 フェルドを追い越して、マドルスに認めてもらいたかったのだろう。しかし、その血の滲むような努力も実らなかった。