『手紙は出してなかった』

 こんな簡単な言葉が、口から出せない。

『ジャンは死んだ』

 伝えなければならないその事実さえも、口からは出せなかった。
 リアンに嫌われたくなかったのだ。
 寝たきり生活を始めて、半年が過ぎた。
 耳を近付けなければその声が聞こえない程、マドルスは衰弱している。そして、未だにリアンに真実を言えずにいるのだ。
 そんなある日、リアンが学校に行っている間に、フェルドの弟のスタルスが、妻と娘と共にマドルス家に来ていた。

「…おじいちゃん」

「…お義父様」

 スタルスの妻のジェニファと娘のジュリエは、ベッドに寝そべるマドルスを、心配そうに近付くで見詰めている。しかし、実の息子であるスタルスは、部屋の片隅に立ち、マドルスを遠くから物思いな顔を浮かべ見詰めているだけだった。
 マドルスは聞き取りにくいほどの小さな声で、スタルスの名を呼んだ。しかし、スタルスには聞こえていないようだ。

「あなた、お義父様が呼んでいますよ」

 ジェニファは、マドルスの代わりにスタルスを呼んだ。
 スタルスは、ゆっくりとマドルスが横たわるベッドへと近付く。そして、どこか冷たい顔をして、マドルスを見下ろした。

「…大丈夫ですか、父さん?」

 スタルスは冷たい顔をしたまま、感情を込めていないかのように、圧し殺したような低い声で尋ねた。

「…スタルス…お前に頼みがある」

 マドルスは、小さな声で苦しそうに喋った。