元から医者からは、永くはないと言われていた。それ程に病魔に巣くわれているマドルスは、ベッドの上で1日を過ごすようになった。
 医者は入院する事を強く勧めたが、マドルスはリアンと少しでも一緒に居たくて、頑なに拒み続けている。
 そんなマドルスを心配して、リアンは学校以外の時間の殆どを、マドルスの部屋で過ごしている。
 そんなリアンの優しさに触れ、マドルスは自分の愚かさに、嫌という程気付かされた。しかし、ジャンへの手紙は引き出しの中にあるとは、いくら勇気を振り絞っても、言う事が出来なかった。リアンに嫌われるのが辛かったのだ。
 マドルスは心労のせいか、日に日に弱まっている。そして、自分の死期を悟った。
 自分が死んだ後、リアンはどうなるのか?
 寝た切りのマドルスの頭は、その事でいっぱいだ。
 残してやれる財産は山ほどある。しかし、リアンはまだ学校に通わなければならない子供。
 金があっても、一人で生きていける訳がない。
 そこでマドルスは、葛藤した末に、ジャンに電報を打った。
 虫の良い話かもしれないが、再びリアンを育てて欲しい旨を伝える為に、電報を打ったのだ。しかし、その願いも虚しく、電報が届くことはなかった。
 住所はあっている。しかし、その住所であるリアンが育った酒場には、今は誰も住んでいなかったのだ。
 マドルスは、リアンが育った街に執事を行かせ、ジャンを探させた。そして、数日後に帰ってきた執事の口から聞きたくない言葉を聞かされる事となった。

「一ヶ月程前に、事故に遭い亡くなったそうです」

 マドルスは自分の愚かさに泣き、リアンに対して取り返しのつかないことをしていたと、深く後悔した。そして、ジャンが死んだ事をリアンに何度も告げようとした。しかし、マドルスは自分の犯した過ちのせいか、リアンに言えないままでいる。