「…ううん…なんにもないよ」

 静かに顔を上げたリアンの表情は、明らかに暗い。

「じゃあ、どうした?最近元気がないぞ?」

「…元気だよ」

 リアンは、心配させたくなくて嘘を吐いた。

「…嘘吐かなくていいんだぞ」

「…うん…ジャンから手紙の返事が来ないんだ…ジャン、本当に旅に出たのかな?」

 リアンの言葉を聞き、表情をなくしたマドルスは俯いた。
 ジャンに送ったその手紙は、マドルスの部屋の引き出しの中に眠っている。
 返事がこなくて当たり前だ。

「…あのな、リアン」

 マドルスは勇気を出して、正直に話そうとした。

「…ジャンに会いたいな」

 リアンは一人言のように呟いた。
 その呟きを聞き、マドルスは言葉を飲み込んだ。

「……旅に出たのかもな」

 リアンがジャンの元へ帰ってしまう。そんな思いに駆られた。
 正直に言えないまま、またマドルスは嘘を吐いた。

「…うん…でもまた手紙書いてみよう」

 リアンは力なく答えた。

「……」

 マドルスは次の言葉が出てこなかった。
 それからのマドルスは、リアンに対して、申し訳ない気持ちでいっぱいなった。
 正直に話すか、嘘を突き通すかの、葛藤の日々が続く。
 リアンから、ジャンへの手紙を出すのを頼まれる度、マドルスは葛藤していた。
 孫を失うか。孫の大切な人のところへ帰すか。しかし、答えはいつも一緒だ。
 マドルスの引き出しには、リアンが書いたジャンへの手紙が溢れる程仕舞われていった。
 そんな葛藤の日々が半年程続いたせいか、マドルスは体調を崩し始めた。