執事達は、剥がしたグシャグシャになってしまった絵を両手いっぱいに持っている。
「暖炉の中で全部燃やしてしまえ!」
執事達は苦い顔をしながら部屋を出ると、マドルスの言い付け通りに暖炉のある部屋に向かった。
「…うわぁ!」
意識が途絶えたように、呆然としていたフェルドは嘆きの声を上げると、仁王立ちするマドルスの横をすり抜け、執事達の後を追った。しかし、暖炉の手前で一人の執事に押さえ付けられ、ただ叫びながら燃えて行く絵を涙越しに見ている事しかできなかった。
遅れて部屋に入ってきたマドルスは、ゆっくりと暖炉の側までやって来ると、押さえ付けられているフェルドを睨み続けた。
ゆらゆらと燃える絵が、部屋の中に暖かな空気を送り込む。そして、泣き叫ぶ声に混じり聞こえていた、ぱちぱちと燃やす音が消えた。
執事に押さえ付けられていたフェルドは、その手を振り払い、暖炉の中に手を入れようとした。しかし、暖炉の横に立っていた執事が、必死にそれを阻止する。
「お前はピアニストになるんだぞ!ピアニストにとって手は、命なんだぞ!」
マドルスのその言葉も、フェルドの耳には届かぬ程、打ちひしがれている。暫くすると、フェルドを押さえ付けていた執事は手を離した。
フェルドは真っ白な灰と化した絵によたよたと近付くと、すっかり冷め切ったその灰を、両手に掴み泣き叫んだ。
「ピアニストになる以外は認めんからな!」
マドルスはそう言い残し、部屋を後にした。
執事達は、いつまでも灰を両手に握り締めるフェルドを見詰め、涙を堪えた。そして、その日の夜明け頃、フェルドは何も言わずに荷物を纏め、家を出たのだ。
それからフェルドがこの家に帰ってくる事は、二度となかった。
「暖炉の中で全部燃やしてしまえ!」
執事達は苦い顔をしながら部屋を出ると、マドルスの言い付け通りに暖炉のある部屋に向かった。
「…うわぁ!」
意識が途絶えたように、呆然としていたフェルドは嘆きの声を上げると、仁王立ちするマドルスの横をすり抜け、執事達の後を追った。しかし、暖炉の手前で一人の執事に押さえ付けられ、ただ叫びながら燃えて行く絵を涙越しに見ている事しかできなかった。
遅れて部屋に入ってきたマドルスは、ゆっくりと暖炉の側までやって来ると、押さえ付けられているフェルドを睨み続けた。
ゆらゆらと燃える絵が、部屋の中に暖かな空気を送り込む。そして、泣き叫ぶ声に混じり聞こえていた、ぱちぱちと燃やす音が消えた。
執事に押さえ付けられていたフェルドは、その手を振り払い、暖炉の中に手を入れようとした。しかし、暖炉の横に立っていた執事が、必死にそれを阻止する。
「お前はピアニストになるんだぞ!ピアニストにとって手は、命なんだぞ!」
マドルスのその言葉も、フェルドの耳には届かぬ程、打ちひしがれている。暫くすると、フェルドを押さえ付けていた執事は手を離した。
フェルドは真っ白な灰と化した絵によたよたと近付くと、すっかり冷め切ったその灰を、両手に掴み泣き叫んだ。
「ピアニストになる以外は認めんからな!」
マドルスはそう言い残し、部屋を後にした。
執事達は、いつまでも灰を両手に握り締めるフェルドを見詰め、涙を堪えた。そして、その日の夜明け頃、フェルドは何も言わずに荷物を纏め、家を出たのだ。
それからフェルドがこの家に帰ってくる事は、二度となかった。