リアンがジャンの所に行ってしまうのが怖かったのだろう。リアンを失うことが辛かったのだろう。そして、それを隠す為に吐いた嘘で、より罪悪感を深めて行った。
 幸いな事に、一番嘘が見抜かれたくない相手であるリアンには、マドルスの変化を気付かれていない様子だ。
 家に着いたリアンを、いつものように家庭教師の授業が待ち受けていた。
 元から頭は悪くないリアンは、授業をそつなくこなしていく。そして授業が終わると、楽しみであるマドルスのピアノレッスンが始まった。

「お願いします」

 リアンはいつものように、マドルスに挨拶をした。
 数日前からリアンは、楽譜を見ながらピアノを弾く楽しみを、覚え始めていたのだ。楽譜を見ないで弾く方が心踊るものがあったが、楽譜を見ながらの演奏は、リアンにとって何かゲームをやっているような感覚だった。そのせいだろうか、楽譜を見ながら弾くピアノの音は、リアンらしくからぬ、どこか感情の込もっていない機械的なメロディーばかりだ。

「そこはもっと感情を込めろ!」

 いつも優しいレッスンをするマドルスは、珍しくリアンを叱りつけた。

「……」

 リアンは叱られたショックで、ピアノを弾く指を止めてしまった。

「なんで止めるんだ!」

 またマドルスは叱った。
 戸惑いながらも、リアンは涙を堪えてピアノを再び弾き始めた。

「違うそうじゃない!」

 何度もマドルスは叱った。