『ジャンに会いたいな…』

 この一文を読んで、マドルスは困惑した。そして、マドルスはリアンから受け取った便箋を、自分の机の引き出しにしまってしまった。
 マドルスは、リアンがジャンの所に戻ってしまうかもしれないと思ったのだ。その証拠に、顔をしわくちゃにして、頭を抱えている。

「持って参りました」

 封筒と切手を持ってきた執事が戻ってきた。

「…もう、いらん」

 マドルスは、ぽつりとそう呟いた。
 朝になり、リアンはマドルスと共に車で学校に向かっている。

「おじいちゃん!手紙出しといてね!」

 リアンはそう言うと、車から降り、校内に向かって今日も元気に駆けて行った。
 マドルスは返事をする事なく、車窓からリアンの遠離る姿を見詰め、頭を抱えた。
 それから数時間後。
 マドルスはいつものように、運転手付きの車に乗り、リアンを迎えに行った。
 帰りの車の中、リアンはマドルスに笑顔で尋ねた。

「手紙出しといてくれた?」

「…あぁ」

 しばらくの沈黙の後、マドルスはそう答えた。
 マドルスの額には、うっすらと汗が滲んでいる。その表情から見ても分かるように、マドルスは嘘を吐いているのだ。
 リアンが書いた便箋は、マドルスの引き出しの中にあるまま。マドルスはどうしても手紙を出すことができなかったようだ。