マドルスによるピアノのレッスンも、毎日行われている。
 ピアノのレッスンは楽しいが、家庭教師の授業だけはリアンにとって苦痛の種だった。しかし、家庭教師のおかげで、学校の授業にもついて行けるようになっている。
 そんな生活が三ヶ月続いた。
 夕食を終えたリアンは、自室に戻り、前から出したかった、ジャンに宛てた手紙を書き始めた。

『ジャン。もう足の怪我よくなったかな。僕は新しい学校で友達がいっぱいできたよ。おじいちゃんにピアノ教えてもらってるんだ。楽譜も読めるようになったよ。ジャンに会いたいな。』

 このような文章を、便箋五通に渡って書き綴った。
 手紙を書き終えたリアンは、マドルスの部屋に向かった。

「おじいちゃん、封筒と切手ない?」

「…うん、どうしてだ?」

 マドルスは不思議そうな顔で尋ねた。

「ジャンに手紙書いたんだ」

 リアンは便箋を振り回しながら、嬉しそうにしている。

「…じいちゃんが出しといてやるよ」

 一瞬、顔色を曇らせたマドルスはそう言うと、リアンに向け右手を差し伸ばした。

「うん!頼んだよ!」

 その表情に気付かなかったリアンは、便箋を渡すと、嬉しそうに部屋に戻って行った。
 一人きりになったマドルスは溜め息を付くと、テーブルの上にあるベルを鳴らし、執事を呼んだ。

「封筒と切手を持ってきてくれ」

 執事が戻ってくる間、マドルスはいけないと知りながらも、リアンが書いた手紙を読んだ。