リアンはこのピアノを使って、マドルスから楽譜の読み方を教わった。リアンは元からピアノが弾ける為か、飲み込みは早かった。しかし、ピアノの楽譜の意味は理解できたが、一度も聴いた事のない曲の楽譜を見ながらの演奏は、リアンらしからぬ、違和感のある演奏であった。
 リアンは初めてピアノを弾くのを苦痛に感じた。楽譜を読みながらの演奏は、弾いていても楽しくなかったのだ。

「…最初は誰でもそうだからな…慣れれば、いつも通り弾けるようになるからな」

 落ち込むリアンを見て、マドルスは頭を撫でた。
 時は過ぎ、夕食の時間になった。

「…リアン、家庭教師雇ったからな…明日から帰ってきたら、毎日勉強だぞ」

 マドルスは口元をナフキンで拭いた後、そう言った。

「…毎日?」

 せっかくできた友達と遊べなくなると思い、リアンの表情が曇った。

「そうだ毎日だ…フェルドだって毎日勉強して、ピアノのレッスンをしてたんだぞ」

「パパも…でも毎日だと友達と遊べなくなるよ」

 リアンは甘えるように、口を尖らせた。

「遊ぶ?…駄目だ!立派な大人になる為なんだ!」

 マドルスは急に厳しい顔付きになった。