「…うん、弾けるよ」

 リアンはどうして睨まれてるんだろうと、戸惑いながら答えた。

「じゃあ、弾いてごらんなさい」

 本人に自覚があるのかは定かではないが、シャロンのその言い方は、どこか高飛車だ。

「リアン、ピアノ聴かせてくれよ」

 そういう声が、周りからちらほらと聞こえてきた。

「リアン君、弾いてごらん」

 セトリルは、真っ白なアゴヒゲを触りながら、穏やかに笑っている。

「…はい」

 リアンは戸惑う瞳でシャロンを横目に見ると、ピアノの前に行き、椅子に座った。

「じゃあ、そこにある楽譜の中から、好きな曲を選んで弾いてごらん」

 セトリルの言葉を聞いたリアンは、ピアノの上に束ねられた楽譜を一瞥した。しかし、困ったような顔を浮かべたまま、楽譜を選ぶ素振りさえ見せない。

「…どうしました?」

 リアンの様子を見て、セトリルは心配そうな顔をしている。

「…僕、楽譜読めないんです」

 リアンの言葉を聞いて、シャロンは高笑いした。

「ほっほほ!ピアノ弾けるなんて嘘でしょ!マドルスの孫だからって弾けるとは限らないわよね!」

 どこか勝ち誇ったような顔で、シャロンは腕組みをしている。