リアンも教科書を持ち、皆に囲まれながら、次の授業を受ける場所である音楽室へと向かった。
 クラスメイト全員が音楽室に入った。そして暫くすると、授業の開始を告げる優しげな鐘の音が鳴り響いた。
 その鐘の音が鳴り止まぬ内に、教室にセトリルという白髪が目立つ音楽教師が入ってきた。

「…では今日は歌を唄いましょう」

 セトリルは、授業の始まりの挨拶を済ませた生徒達に向かい、にっこりと微笑んだ。

「でもね、先生昨日、指を怪我しちゃって…シャロン、ピアノ弾いてくれるかい?」

 セトリルは指に巻いている包帯を見せながら、一人の少女を手招きした。

「はい、先生」

 シャロンという美しい少女は、凛とした歩き姿で前へ出ると、皆の視線を浴びながら、ピアノの前に背筋を伸ばし座った。

「そこにある曲を弾いてね」

 セトリルの言葉を聞き、ピアノに立て掛けられた楽譜を一瞥すると、シャロンは静かに頷いた。そして、細長い白い指先を鍵盤に這わせると、楽譜を見ながら伴奏を始める。
 教室の中に、透き通るように美しい、ピアノの音が鳴り響く。
 みんなはシャロンのピアノに合わせ、教科書の歌詞を見ながら歌い出した。そんな中、リアン一人だけが口を開いていない。リアンは決して歌えない訳ではない。この曲は、知っている。
 リアンは歌う事を忘れて、心を揺さぶるようなシャロンのピアノの音に、聴き惚れているのだ。
 結局、リアンが一度も歌う事なく、ピアノの伴奏が終わった。
 シャロンは立ち上がると、金色の髪をなびかせ、リアンの前までやってきた。

「あなた、ピアノ弾けるの?」

 そう聞いたシャロンの瞳は、どこか睨み付けているように見える。