リアンは運ばれてくる料理を、全てマドルスの真似をして食べた。
 真似るのに必死で、その味の素晴らしさに気が付かないリアンであったが、運ばれてきた全ての料理は、一流と呼ぶに相応しいものだった。

「もっと好きに食べたいな……ジャンだったら…」

 リアンはそう思い、空しくなった。
 会話が弾むジャンとの食事とは違い、マドルスは黙って食事をしている。リアンもそれに習い、話し掛ける事はしなかった。そして、静かな食事は終わり、リアンは一人部屋に戻った。
 今日からここが自分の部屋となる。
 まだ実感は湧かないものの、リアンは荷物を部屋の中へと置いていく。そして、最後にフェルドの絵をベッド側の壁に飾り付け、枕元に若かりし頃の両親とジャン三人が仲良く写っている写真を置いた。

「…おやすみ」

 リアンは写真の中の皆に挨拶をし、眠りに就いた。
 次の日、リアンは車に乗りマドルスと共に学校に向かった。勿論、運転手付きの車だ。

「こちらが孫のリアン.ソーヤです…これからよろしくお願いいたします」

 マドルスは学園長室で、その部屋の主である学園長に向かって頭を下げている。
 学園長は天下のピアニストに頭を下げられ、大変かしこまっている様子だ。

「…わ、分かりました…こちらこそよろしくお願いいたします」

 学園長は床に頭が付くぐらいのお辞儀を返した。

「リアン、がんばれよ」

 マドルスはそう言い残し、学校を去って行った。
 リアンは学園長に連れられ、これから学び舎となる教室へと向かった。そして、二人はまだ授業前なのに静まり返る教室へと入り、学園長直々に、生徒達にリアンを紹介した。