まったく、この店の客は、ビール以外の飲み物は口にしないのか?たまには、値のはるウィスキーでも注文してくれよ。
 ジャンはビールをグラスに注ぎながら、そう思った。
 そういえば、この店でビール以外の飲み物の注文が入ったのは、どのくらい前の事だろう?一年前?二年前?ジャンには覚えがなかった。
 少なくともジャンが、この店の店主になる前の事だろう。
 常連客しかこないような、こんな田舎の酒場だから、しかたがないといえば、しかたがないのだろうか?
 時計の針は九時を指している。店の中は、程良く混んできた様子だ。
 大人にとってはまだ宵の口だが、十二歳のリアンにとっては、もう夜遅い時刻だ。

「おいリアン、そろそろあがってくれ」

 ジャンは、忙しく動き回るリアンに声を掛けた。

「おっ?もうあがるか、おやすみ」

 常連客達は飲む手を止め、リアンに手を挙げる。

「みんな、おやすみなさい」

 リアンは持っていたビールを客の元に届けると、みんなに挨拶をして、店の二階へと上がって行った。
 店の二階は住居になっている。リビング、風呂、トイレ、そして二つの部屋。