「…どうしたの?」

 涙を流している姿を見て駆け寄ったリアンは、心配そうな表情でマドルスの顔を見上げる。

「…なんでもないよ」

 マドルスは跪き、リアンを優しく抱き締めた。

「…リアン…今の曲のタイトルはなんて言うんだ?」

「タイトルなんてないよ…今適当に弾いてたんだ」

 リアンの言葉を聞き、マドルスは驚愕した。
 リアンの即興曲は、世界的なピアニストのマドルスさえも驚かせたのだ。そして、マドルスはリアンにフェルド以上の才能がある事を感じ取った。リアンは、ピアノに愛された子供だと思ったのだ。

「…リアン…ピアノもっと上手くなりたいか?」

「うん」

「…そうか…じゃあ、じいちゃんが教えてあげるよ」

「おじいちゃんピアノ弾けるの?」

「…ちょっとだけな」

 マドルスはピアノの前に座り、顔付きを変えた。そして、その指先が鍵盤を叩き始めた。
 室内に心地良いメロディーが響き渡る。
 リアンは驚いた様子で、ピアノを弾くマドルスの姿を見詰めた。
 こんなに素晴らしい音色を聴くのは、フェルドの演奏を聴いて以来だったのだ。
 マドルスの演奏は、リアンの心に響く程、素晴らしいものだった。