「ここが今日から、リアンの家だよ」

 玄関から見える屋敷の中は、正に屋敷と呼ぶに相応しい装飾が至る所に施されている。それに一瞥しただけでは、何部屋あるか分からない程、ドアの数がある。

「さぁ、入ろう。付いておいで」

 キョロキョロと周りを見ながら、リアンはマドルスの後を付いて行った。
 先程から、いくつもドアを通り過ぎている。
 マドルスの足が止まった。そして、とある部屋のドアを開けた。

「今日からここが、リアンの部屋だよ」

 そう言ったマドルスは、優しげな笑顔を浮かべている。
 そこへ使用人がリアンの荷物を部屋まで運んできた。リアンは頭を下げ、使用人にお礼を言った。

「リアン、この屋敷では、わし以外にお礼を言ったらだめだよ」

「え?」

 リアンは戸惑った。お礼を禁止する意味が分からないのだろう。

「彼らは、わしらに仕えるのが仕事なんだよ」


「仕事?…うん、分かった」

 リアンは、マドルスの言っている意味をあやふやに理解しながら、返事をした。

「それから、分かったじゃなくて、分かりましただからな」

「…はい…分かりました」

 マドルスの穏やかな顔に滲む厳しい表情を見詰め、リアンは答えた。