「…世界的に有名なピアニストですよね?」

「…ただのピアニストです」

 そう謙遜したマドルスの顔は、より悲しみに染まっている。

「…息子の子供…孫の名前を教えてくれませんか?」

「…リアンと言います」

「…リアン」

 マドルスはリアンの名を呟きながら、堪えていた涙を流した。

「…私はずっと息子を探していました…そしてやっと出会えることができたんです…今日、息子達の墓に行ってきました」

 マドルスは、人から聞いたフェルド達夫婦が眠る墓を参った帰り道に、ここにきた。

「…あなたがリアンを育ててくれていたのですか?」

「親友の子供ですし…自分の子供だと思っていますから」

「…ありがとうございました」

 マドルスは、しわくちゃの手でジャンの手を握り締めた。

「…これは今まで育ててくれていたお礼です」

 マドルスは握り締めていた手を離すと、床に置いた鞄から、何かを取り出した。
 それはジャンが見た事がないような、幾つもの札束だった。

「…そんな物いりません」

 ジャンは金を受け取らなかった。

「…リアンを私に返して貰えないでしょうか?」