話はリアンがジャンの病室を訪れる、二時間程前に遡る。
 既に処置を終えていたジャンの病室は、酒場の常連客達で賑わっていた。
 そこにマドルスが来た。

「…お話があるのですが」

 マドルスの顔は真剣そのものだ。
 
「…はい、みんなちょっと、二人きりにしてくれないか」

 歯向かう者はいなかった。
 常連客達はドアの前に立つマドルスを横目で見ながら、病室から出て行った。
 病室に静けさが戻った。初めに口を開いたのは、ジャンだった。

「…そこに椅子がありますから、どうぞ」

「…はい」

 マドルスは、ジャンの近くに置かれている椅子に腰掛けた。そして、ゆっくりと口を開いた。

「…わたしはフェルドの父親です」

「…フェルドの」

 フェルドの写真を悲しそうに見ていマドルスの様子から、その可能性もあると考えていたジャンは、あまり驚いていない様子だ。

「…申し遅れました。私の名はマドルス・ソーヤといいます」

 マドルスは悲しそうな顔をしている。

「…マドルス・ソーヤ?…ってあの?」

 ジャンはその名前を知っていた。そして、記憶に残る昔見た雑誌に写っていたマドルス・ソーヤと、目の前にいるマドルスの顔が重なった。