リアンは物心付く頃からフェルドの真似をして、ピアノを弾いていた。
 フェルドのピアノの腕前は、プロをも凌ぐものがあった。
 稼ぎの少ない常連客達は、フェルドのピアノ聴きたさに、この酒場に通っていたといっても過言ではないだろう。常連客達は今でもリアンのピアノ聞きたさに、この酒場に通ってきてくれている。
 リアンはこの曲を酒場で弾くのは始めてだった。今日はなんだか『別れ、旅立ち』を弾きたい心境だったのだ。
 リアンがピアノを弾き始めると、騒いでいた客達は静まり返った。
 なんとも悲しげなメロディーだ。
 五人いる常連客全ての瞳が、今にも涙を零しそうになっている。
 そしてリアンは涙を堪えながら、演奏を終わらせた。
 皆が感動の余韻に浸る中、酒場に見掛けない客が入ってきた。見掛けが七十歳の男性だ。
 この酒場に常連客以外の客が入ってくるのは、珍しい事だ。常連客達は珍しそうに、その老人を横目で見始めた。
 老人はカウンターの端に座ると、ウィスキーのロックを注文した。
 ジャンは店主になってから始めて儲けのあるウィスキーの注文を受け、口元を緩めた。そして、グラスに氷を入れると、ウイスキーを注いだ。

「リアン!さっきの曲アンコール!弾いてくれよ!」

 老人がウィスキーをおかわりする頃に、常連客の一人が言い出した。
 静かに頷いたリアンは、ピアノの前に座ると、鍵盤に指を這わせた。