「…あぶなかったな」

 秘密基地に着いたドニーは、肩で息をしながら言った。

「…うん!」

 リアンも息を切らしている。そして二人は、顔を見合わせて笑いだした。今日初めての笑顔だ。

「…なぁ、リアン。このまま学校に戻ってもお尻叩きの刑が待ってるだけだから、このまま秘密基地にいようぜ!」

 ドニーが穴だらけのソファーにドカッと座った。

「うん!」

 リアンもドニーの横に腰掛けた。
 この秘密基地は空き家を改造して、二人が数日掛けて作った基地だ。
 ソファーをごみ捨て場から拾ってきたり、穴の空いた壁を板で塞いだりと、思い出いっぱいの場所。部屋の中には、ロープと木で作られたブランコが揺れている。
 立ち上がったドニーは、二人で作ったその思い出のブランコに乗り、口を開いた。

「リアン、ピアノ聴かせてくれよ」

「うん」

 リアンはゆっくりとピアノに近付くと、鍵盤に指を這わせた。そして、いつものようにアップテンポなリズムの曲を奏でた。
 ドニーはブランコをメトロノームのように揺らし、リズムをとっている。
 曲調が、悲しいものへと変わった。
 ブランコを揺らしていたドニーの目からは、勝手に涙が溢れ出している。
 その思いと同じリアンも、ピアノを弾きながら涙を流した。
 二人だけを包む悲しいメロディーが、秘密基地に響き渡る。そして、そのメロディーは突如終わりを迎えた。
 演奏を止めたリアンの元へ、ドニーは駆け寄った。