審査員の一人から、盾と賞状を受け取ったジュリエは、深く頭を下げた後、観客に向け再び頭を深く下げた。
 会場は、グランプリを取った者に送るような、盛大な拍手の音が響いている。
 客席に座り、懸命に拍手を送る者の心に残る演奏をジュリエがした事は、盛大に送られているその拍手が物語っているだろう。
 しかし、ジュリエは準グランプリ。グランプリを取る者は、このステージに立つ者の中に、他にいるのだ。
 客席に向け下げていた頭を、ジュリエは上げた。そしてその視線を、グランプリを取る者に向けながら、ステージの端へと移動した。
 パチパチと拍手の余韻が残っていた会場が、静けさに包まれる。
 ヤコップが、スタンドに立て掛けられたマイクに近付いた。
 皆が固唾を飲んで、ヤコップの開かれていく口元を見詰める。そして、皆が信じて疑わなかった者の名を、ヤコップが口にした。

「グランプリは、リアン.フィレンチさんです」

 客席から会場を揺るがす程の拍手が、ステージに向け送られる。
 その拍手の中、ステージの上に立つ一人の少年は戸惑っていた。
 誰とも競った事はない。
 競おうと思った事もない。
 純粋にピアノを弾く事が好きだった。
 しかしそれは、夢へと変わった。
 鳴り止まない拍手が、戸惑うリアンを変えたのかもしれない。
 ピアニストになるという夢を掴む第一歩を踏み出すように、リアンはステージの上を、一歩一歩踏み締めて行く。

「おめでとう」

 審査員からリアンに賞状が手渡される。そして、青く透き通るガラスで出来た盾を渡す際に、リアンの耳元で審査員が囁いた。