ヤコップのこの言葉に、ステージの上の演奏者達は固唾を飲んだ。
 客席に座る者の殆どが、誰が優勝者であるかは、口にしなくとも分かっているだろう。しかし、演奏者の殆どが、リアンのピアノはステージから離れた控え室で聴いている。
 話し声で掻き消されてしまう程の小さな音でしか、その耳に届いていないのだ。
 ある者は自分が優勝すると信じて疑わない。
 またある者は、既に優勝を諦めている。しかし、演奏者の中でジュリエだけは、誰が優勝するか既に分かっていた。
 ジュリエはリアンの演奏を、控え室ではなく、ステージ横の誰も居ない前室で聴いていたのだ。

「審査員特別賞は、エルドラ.リアントさんです」

 名前を呼ばれたエルドラという少女は、項垂れるようにして、ヤコップの前へと歩いて行った。
 きっと自分が優勝する事を信じて疑わなかったのだろう。
 審査員の一人から、エルドラが賞状と盾を受け取ると、会場が拍手に包まれた。
 残されたのは、準グランプリとグランプリの発表のみ。
 ヤコップが、開いた紙へと視線を移した。そして視線を客席へと向けると、再び口を開いた。

「準グランプリは、ジュリエ.ソーヤさんです」

 ジュリエの横に立つリアンは、ステージの上を歩くジュリエに向け、温かな拍手を送った。