そう答えたヤコップもまた、彼等と同じ思いであるが故に、どこか半信半疑しているように見える。

「…どうしますか?審査長が居なかった事など、今までになかったですが、優勝者を早く決めないと」

 最終演奏者であるリアンの演奏が終わってから、既に三十分は経過している。
 例年ならば、各受賞者を決めて審査を終えている時間だ。

「スタルスさん抜きで、審査をしましょう」

 最長年者のヤコップが、そう提案した。
 ヤコップの提案に異議を唱える者は、誰も現れなかった。そして、コンクールの審査が漸く始まった。
 それから二十分後。全ての賞の受賞者が、この部屋で決まった。
 控え室に集められていた演奏者が、係員の指示に従い、ステージへと集まった。
 例年ならば、既に全演奏が終わった会場は、空席が目立っていたが、今年は違った。
 空席を探す方が困難と言えるように、びっしりと人で埋まっている。
 その客席に座る多くの者が、ステージの上に立つ、一人の少年を見ている。
 誰も声こそ掛けはしないが、その少年を求めるように、ステージに向け手を伸ばしている者も少なくはない。
 ステージの端から、審査員達が現れた。
 先頭を歩くヤコップの手には、紙が握られている。
 ステージ端に置かれたマイクの前で、ヤコップは立ち止まった。そしてマイクのスイッチをオンにすると、口を開いた。

「お待たせしました。只今より、各受賞者の発表を致します」