どこまでも続く永遠の坂道。しかし、掛け替えのない親友の背中が、不意に消えた。
 白と黒に染まる坂道。坂道は静寂という音を奏でながら、崩れるように目の前から消えた。残ったのは、砂煙だけ。しかし、砂煙も徐々に消えていき、中から人影が現れた。
 徐々に人影が浮き彫りになっていく。
 プロレスラーのようにがたいの良いその男は、俯き歩いている。

「ジャン!」

 大切な人の名を口にしたリアンだが、その口からは何の音も発してはいない。
 いくら叫んでも、周りの空気を震わす事も出来ないリアンは、その叫びを伝えるように、鍵盤を弾く指先を叫ばせる。そのメロディーが、自分を呼ぶ声だと気付いたジャンは、顔を上げた。
 必死にピアノを弾くリアンを見詰める。ジャンは、顔をくしゃくしゃにし泣き出した。そして、跪き、何かを見上げるように、涙でくしゃくしゃな顔で天を仰いだ。
 不意にジャンの体が浮き上がった。
 ジャンはこの地に残ろうと、必死に藻掻いている。しかしそれは叶わぬ事なのだろう。
 ジャンの体はゆっくりと確実に、この地から離れて行っている。
 くしゃくしゃな顔で見詰めるリアンに向け、その手を伸ばす。しかし、ジャンの指先がリアンに触れる事は叶わない。
 リアンとジャン。二人の間には、距離があり過ぎるのだ。
 いつまでも届かぬ指先を、必死に伸ばす。しかし、ジャンの指先が掴むのは、周りの空気だけ。そして、どんなに藻掻いても、触れる事は叶わないと悟ったのだろう。ジャンの泣き顔が、優しげな笑顔に変わった。
 泣き虫なジャンは、いつでもリアンの前で笑っていた。