「…ありがとうございます」

 ジョルジョバの優しさに気付いたジェニファは、心の底からお礼を言った。

「お礼なんて言う必要はありません。それから、お嬢さんにも話さない方がいい。何処からご主人の耳に入るか、分かりませんからな」

「…分かりました…こんな事、私が言う資格はありませんが…リアンを幸せにしてあげてください」

「必ず幸せにします。任せてください」

 ジョルジョバは涙の止まらないジェニファを和まそうと、大袈裟に自分の胸を叩いた。その仕草を見たジェニファの心は、少しずつ和んでいった。

「…リアンは、ピアノを弾いていますか?」

 それもまた、ジェニファにとって気掛かりな事。

「えぇ、毎日楽しそうに弾いていますよ」

「…ジョルジョバさんが、リアンにピアノを教える事はあるんですか?」

「教えるという程ではありませんが、毎日お互いの演奏を聴いています」

「…よかった」

 涙に混じり、ジェニファの口から溜め息が漏れた。

「…リアンのおじいちゃんの遺言だったんです」

 ジェニファは目元の涙をハンカチで拭くと、穏やかな口調で話し始めた。

「マドルスの遺言?」