このまま帰れば、ジェニファはスタルスに、リアンがジョルジョバの養子になる事を伝えるだろう。
 自惚れる訳ではないが、リアンが自分の養子になる事を知ったスタルスが、どのようになってしまうかは、ジェニファの話を聞いた今だからこそ、ジョルジョバには想像できたのだ。
 スタルスは、リアンの父であるフェルドのピアノの才能を恨んでいる。そして、リアンのピアノにフェルドのピアノを重ねているとジェニファは言った。
 スタルスはリアンの名を聞く度、物に激しく当たるようになった。それは家族から見ても、常軌を逸している姿のようだ。
 スタルスは最早、リアンを憎み、恨んでいる。
 ジェニファが包み隠さず全てを話してくれたからこそ、ジョルジョバはそう感じた。
 ジェニファはスタルスに長年連れ添ってきた。ピアノの神と謳われたジョルジョバの子供として、リアンは受け入れられる。その事実を知った時、スタルスがどうなってしまうかは、ジョルジョバ以上に具体的に想像できた。

「…話さないと、いけないでしょうか?」

 ジェニファは、他人に答えを求めるものではないと分かりながらも、その切実な問いが、口から漏れたようだ。

「…話されない方がいい」

 断言しなければ、思い悩む日々が続くと思ったのだろう。ジョルジョバは、断言してそう言った。

「…でも」

「リアンの事を話されたら、ご主人は壊れてしまうかもしれない。話されない方がいい」

 躊躇しているジェニファの気持ちを、ジョルジョバは後押しした。