連鎖していく拍手の音。
 感動という余韻に包まれている客席。全ての者が、ジュリエに向け、賞賛の拍手を送っている。

「…素晴らしい演奏でしたね。さすがお嬢さんだ」

 客席の中央に座る、口の周りに髭を蓄えた男が、隣の神経質そうな男に話し掛けている。

「ありがとうございます」

 礼を言ったのは、ジュリエの父親であるスタルス.ソーヤである。
 スタルスと髭を蓄えた男は、客席の中央付近に設けられた、コンクールの審査員席に座っている。審査員席といっても、客席との違いは椅子の前にテーブルが置かれているだけしかない。他にも、五人の者が審査員席に座っているのを見ると、七人でコンクールの審査をするようだ。
 審査員長を務める者が毎年座る席には、今年もスタルスが座っている。スタルスは去年に引き続き、審査員長を務めているのだ。

「今年はお嬢さんの優勝かな?」

 髭を蓄えた男ことヤコップは、スタルスにごまをすっている訳ではない。
 スタルスは指揮者、ヤコップはピアニストと職業は違えど、音楽業界に携わっている年数は、ヤコップの方が遙かに長い。
 後輩のスタルスに、ごまをする必要などないのだ。

「…まだ、全員の演奏を聴いた訳ではないですから」

 ヤコップがお世辞を言わない性格な事を知っているスタルスは、自分でもジュリエの優勝を確信しながらも、謙遜した。

「でも、お嬢さんのライバルとなる者が現れるかもしれませんよ」

 ヤコップはニヤリと笑い、何か言いたげな顔をしている。