「…本当だ…コンクールが終わったら、いっぱいお話しよう」

ジュリエもまた、淋しそうである。

「うん」

 集合時間までの間、二人は会わなかった期間を埋めるように、お互いの話をした。
 その中で、リアンの父親がジョルジョバだという事を聞いたジュリエは、驚きを隠せない様子だ。
 ピアノを志す者ならば、ジョルジョバの名を知らない者はいないと言っても過言ではない。ジュリエが驚くのも無理はないだろう。

「…もう、行かなくちゃだね」

 階段に腰掛けていたリアンは、立ち上がると、淋しそうに呟いた。

「…うん、また後で話そうね」

 淋しそうなジュリエの言葉に、リアンが静かに頷くと、どちらからともなく手を繋ぎ、二人は控え室へと戻って行った。
 それから一時間。トップバッターが演奏を始めた。
 今日演奏するのは、二十二人の若者達。その中で、会場があるこの街に住む者は、リアンしかいない。他の者は、少し離れた場所や、遠くから来ているようだ。
 年に一回、決まってこの会場で開かれるこのコンクールは、今年で二十回目を迎えている。そして、このコンクールで演奏した者達の中で、ピアニストになった者は数多くいる。
 プロになれる事自体が狭き門だと言えるピアニストという名の職業。その中でも、このコンクールで優勝した者達の殆どが、ピアニストとして成功している。この国でピアノを弾く者達にとっては、大きな目標となるコンクールなのだ。
 控え室で口を閉ざして待っているリアンの耳にも、小さいながらもピアノの演奏する音が聴こえている。
 そんなリアンの横には、ジュリエが座っていた。
 控え室に入ってから、二人は時折目を合わせはするものの、会話らしい会話はしていない。