リアンは誰もいない壁際のテーブルを見付けると、そこに手荷物を置き、近くの椅子に腰掛けた。そして気持ちを落ち着かせるように、目の前の真っ白い壁を見詰める。
 部屋の中はリアンと同世代の者しかいない。
 はしゃぐような幼子がいない部屋の中からは、騒がしい声など聞こえてはこない。
 白は癒しの効果があるのだろう、リアンの心は直ぐに落ち着いた。そして徐に立ち上がると、くるりと振り返った。
 遠慮無しに、ライバル達に視線を注ぐ者。
 緊張の余り、体をガタガタと震わせている者。
 部屋の中の者達は、様々な性格なようだ。
 ライバルを意識するというよりも、リアンはどんな者達がこの憧れの会場でピアノを弾くのか気になり、周りの者達へ遠慮気味に視線を送っている。
 そのリアンの視線が、一人の少女とぶつかった。
 何年も会っていなかったが、お互いが直ぐに分かった。

「…リアン!」

 自分を見詰めている少女が、叫びながら駆け寄って来た。

「…ジュリエ!」

 共に暮らした時間はそれ程長くはないが、リアンの記憶に残る、従妹の少女と重なった。

「リアン!」

 ずっと心配してきたリアンが、目の前に現れたジュリエは、思わず抱き付いてしまった。
 音といえば、静かな話し声しか聞こえていなかった部屋の中。大きな声を出せば、誰もが気付く。
 まだ若い男女が抱き合う姿を、目を丸くして皆が見ている。

「…元気だった?」

 リアンから体を離したジュリエは、目に涙を浮かべそう言うと、リアンの目を見詰めた。

「元気だったよ…ジュリエこそ元気だった?」