リアンは既に、復帰前のジョルジョバと比べても、遜色のない腕前を持っているのだ。

「まあ、そう焦るな。学生時代は生涯の友ができる時でもあるんじゃぞ。ピアニストは卒業してからでもできるが、学生時代は卒業してからは、できないんじゃぞ」

「それは分かってるんだけど…あーあ、早くピアニストになりたいな」

 リアンは将来の自分を見据えるように、リビングに置かれたピアノへと視線を移した。

「…さっき弾いたばかりなのに、ピアノを弾きたくてうずうずしとるのか?」

 ジョルジョバの言う通り、ずっとピアノを見詰めていたリアンの顔は、弾きたさに満ちている。そしてジョルジョバの言う通り、先程までリアンは、自分の部屋でピアノを弾いていたのだ。
 余程ピアノを弾くのが好きなのだろう。

「…だめ?」

「…約束じゃろ?学校に行く前は、決めた時間にしか弾かないと。また遅刻してしまうぞ?」

 ジョルジョバは誰にも負けぬ程ピアノが好きだと自負していたが、自分以上にピアノが好きなリアンに、苦笑いを浮かべた。

「飯が出来たぞ」

 リアンはその声に聞き覚えがあった。
 それもその筈だ。彼はこの家で料理をする為に雇われているコックなのだから。

「おはよう、ビスコ」

 彼の名はビスコ。
 かつてリアンがホームレスとして暮らしていた時にできた仲間である。

「いつもの時間通りじゃな。時間にピッタリなのは、ビスコらしいの」