熱狂的なファンも多かったジョルジョバ。彼の演奏を聴きに、世界中から様々な人種が会場に押し寄せている。
 復帰したジョルジョバは、その会場でしか、コンサートを開いていない。それは、少しでもリアンと過ごせる時間を増やしたかったからだ。しかしそれは、我が子を溺愛する気持ちだけで、そんな風に過ごしている訳ではない。
 勿論、血の繋がる本当の子供のように愛情を注いでいるが、ジョルジョバはリアンにピアノを教える事に、仕事以上の生き甲斐を感じているのだ。
 そして、ジョルジョバは感じていた。
 急速に腕前を上げていくリアンのピアノを聴く内に、自身の腕前も上がってきている事を。リアンに感化されているのだ 。
 お互いが認め合い、二人は共に成長している。

「おはよう」

 部屋を出てリビングへと入ったリアンは、テーブルの前に座っているジョルジョバに、朝の挨拶を交わした。

「おはよう。今日から新学期じゃな」

 白く伸びた顎髭を触りながら、ジョルジョバは笑顔でリアンを出迎える。

「うん。でも、早く卒業したいな」

 そう言いながら、リアンはジョルジョバの対面に座った。

「何故じゃ?学校は楽しくはないのか?」

 ジョルジョバは心配そうに我が子を見詰めた。

「いや、楽しいよ。でも、早くピアニストになりたいんだ」

 ピアニストとしてのジョルジョバの姿を間近で見てきたリアンは、学友と過ごす楽しい青春時代よりも、いち早く感動を与えるピアニストになりたいと、強い憧れを抱いている。しかし、それは憧れだけでは留まらないだろう。ピアニストとして成功する。その音色を聴いた者ならば、誰しもがそう思うかもしれない。