数時間後。未だ夢中でピアノを弾き続けるリアンは知らないだろうが、空は茜色に変わっている。
 ドアが開いた。すると、教授が夕飯の材料を持って小屋に入って来た。

「…あっ、教授」

 リアンはピアノを弾く手を、十時間振りに止めた。
 教授はテーブルの上に置かれたままの、サンドウィッチを一瞥すると、にっこりと微笑んだ。

「リアン、腹減ってるだろう?」

「え?…いえ、それほど減ってません」

 まだピアノを長時間弾き続けた興奮が冷めないのか、リアンは空腹を感じなかった。

「そうか…皆はまだこなそうじゃな。たまには、わしが夕飯を作ろう」

 リアンに少しでも早く温かなものを食べさせたい思いから、教授はそう言ったのだろう。

「僕も、手伝います」

 教授はリアンの申し出を素直に受け、二人は外に出た。そして、焚き木に火をお越すと、二人は夕飯の支度を始めた。
 鍋の中に教授が切った野菜を放り込み、リアンが味付けの塩を入れる。
 こうして二人で料理を作っていると、ジャンの事を思い出し、リアンは胸が苦しくなった。