教授に対する、あらゆる疑問が全て解けた。
 あんなに素晴らしいピアノの音を奏でられるのも、ホームレスなのに食材を買ってこれるのも、全ては歴史史上最高と謳われた天才ピアニストだったからなのだ。

「ベラベラと喋ってしまったな。今の話は教授には内緒にしとくんだぞ。教授は昔の話をすると嫌がるからな」

「はい、分かりました」

「…じゃあ、わしは日課の散歩にでも出掛けてくるかな」

 ジョルノは軽やかなに右手を上げると、リアンに別れを告げ、小屋から出て行った。
 一人残ったリアンは目を閉じ、記憶にある、教授のピアノの音を頭の中で鳴り響かせる。
 やはり、あんな素晴らしいピアノの音色は聞いたことがない。何の迷いも無い音。何の不安も抱かせない音。
 リアンの中で教授のピアノは、神がかり的な存在になっているようだ。

「…よし、僕も弾こう」

 ピアノの前に座ったリアンは、教授から習った曲を弾き出した。
 数時間夢中で弾いていると、ドアが開いた。しかし夢中で弾くあまり、リアンは誰かが入ってきた事にさえ気付いていない。
 リアンの昼飯を持ってきた教授は、目を閉じピアノを弾き続けるリアンを笑顔で見詰める。そして、一時間程リアンのピアノ演奏を聴いていた教授は、テーブルに載せたサンドウィッチの前に、リアンに向けたメッセージを残し、小屋を出た。